人間のグルーミング

私は人間の会話のことを動物の毛づくろいみたいだな、という目で見てきました。
また、そのことについて自分でも「とてもひねた態度の猫だな」と自覚していました。
ところが、先日、動物行動学について調べているときに『人間のグルーミング』は穿った見方ではなく、実際にそうであるとわかりました。


まず、グルーミングというのは毛づくろいだけを指すわけではない。
もとは衛生管理などのために行う行動ではあったが、社会的動物(人間を含む)の間ではコミュニケーションの意味を持つようになった、ということでしょう。

グルーミングは主に

  1. セルフグルーミング(自分に行う)
  2. 社会的グルーミング(他の個体に行う)

の2種類があるようです。

そして、先天的に知っているグルーミング行動もありますが、後から習得するものもあります。
後天的に習得したものがさらに他の世代に伝わることもあります。

そもそも、私が気になっているのは人間の社会的グルーミングについてなので、以降は社会的グルーミングのみに注目してみていきます。

人間の社会的グルーミング

人間の社会的グルーミングについて考えてみると、特に多いのはこの2つかなと思います。

  • 会話
  • スキンシップ(ボディタッチ)

つまり、人との会話やスキンシップが苦手な私は(後者は苦手ではなく嫌いだが)グルーミング行動がうまく伝搬されなかった個体なのでしょう。
サルの群れの毛づくろいに置き換えると、自分からグルーミングを行わない個体がどうなるかは想像しやすいと思います。

グルーミングによる身内感

やや複雑なグルーミング行動としては、コミュニティー内の用語やあだ名が目立つように思います。

たとえば、思春期に仲良しグループ内のみで使うあだ名、特定の何かを指す用語をつくって共有する行動などがあります。
同窓会や成人式など、久々に会った友人間に顕著にみられました。
当時の先生やクラスメイトを過度にあだ名呼びする行動も「俺たち身内だよな」という確認のための社会的グルーミングに見えます。
これらを行うことで自分たちは同じコミュニティーに属している仲間だという意識が高まるようです。

しかし「あだ名+嘲笑」の場合は単なるコミュニティーの形成ではなく「俺達は仲間だがあいつはそうじゃない」という意味を持つように見えます。
これは中と外という境界線を敷きつつ、共通敵をつくる行動ですね。

ちなみに、怪しい団体も定期的に集まる・共通敵をつくる・自分たちだけの用語をつくるなどしています。いわゆるマインドコントロールですね。
共通敵をつくることで身内感(結束力)も高まるので、グルーミングに属するのかなと思いました。

インターネットのコミュニティー

では、インターネットを通じてのコミュニティーはどうなのかを考えました。

そもそもインターネットのコミュニティーは主に

  • 内容重視
  • つながり重視

という2種類があるようです。
インターネットの難しいところは、匿名であっても身内感を共有していたらつながり重視になり、実名であっても身内感がなければ内容重視に分けられそうだ、というところだと考えました。

そして、その違いはソーシャルメディアによるものではありません。
たとえば、Twitterでも「いい情報が手に入るからフォローしてる人」「内容はいまいちだが仲良くしたい(仲が良い)からフォローしてる人」が混在していますよね。
つまり、内容と関係次第だといえそうです。

内容重視タイプの場合、お互いがお互いに期待しているのはグルーミング行動ではなく良質な情報だといえるでしょう。
そのため、いわゆる「お天気の話」をしなくても、関係は続いていきます。(ゆえにいいアウトプットができなくなった時点で関係は終わりますが)

つながり重視タイプの場合は、共通の何かが重要になるようです。
そして、お互いに「あなたを気遣っていますよ」という仕草が求められます。
アイサツとかファボとか、興味の方向が同じ!同じものを手に入れたよ!というアピールです。
(ゆえに、グルーミングを怠ると問題が生じます)

SNSでのシェア行動

やや話が脱線するのですが、人がSNS上で何かをシェア(TwitterでいうとRT)するのは主に5つの動機があると言われています。(ニューヨークタイムズ社カスタマーインサイトグループの調査)

  1. 有用だから
  2. 他人から見た自分を定義するため
  3. 関係性を維持あるいは深めるため
  4. 自分の存在を示すため
  5. 自分の主張や好きなブランドを示すため

私はSNSにおけるシェアはつながり重視タイプ内での社会的グルーミング行動のひとつなのでは、と感じました。
(1の動機は内容重視っぽいですが、シェアする=誰かに伝えるため なのでグルーミングではないでしょうか)

ニューヨークタイムズ社のようにマーケティングに活かす場合は、さらにターゲットの人物像などを組み合わせてシェアの可能性を高めていきます。
「そういう動機じゃないけどシェアした」という場合は、人物像やコンテンツの型など、他の要素に当てはまったのかもしれませんね。

毛づくろいの輪に入る・或いは傍観者になるために

では、グルーミング行動を伝搬してもらえなかった個体はどうしたら毛づくろいの輪に入れるのでしょうか。
輪に入るのはイマイチだとしても敵ではないとアピールしたい場面は多いです。敵じゃないと伝われば毎回3ウェイハンドシェイクみたいな世間話をする必要もなくなりますし、こいつは魔女に違いない!と吊るし上げられることもなくなるはずです。

私の結論は、後天的に習得することです。
そもそも伝搬にトラブルが起きている個体なので、自分で習得するのがたぶん一番早いと思います。

世の中に溢れている会話術の本が一番目に付きますが、私はイマイチだと思います。
会話ってコマンドの早押し芸、あるいは格闘ゲームのコンボ技みたいなものなので、ある程度学習してからじゃないと素早い入力は難しいと感じました。

でも、練習しないと何も上達しないのはわかりきったことです。ヘアアレンジだって母語じゃない会話だって文章を書くことだって、たくさんのトライアンドエラーで身につけていくものです。

では、どうしたらいいのかというと会話する前に情報収集をするのが最も効果的なのではと考えました。
個人情報のことではなく、相手の行動やクセから心理状態を予測しておいて、そこからボス戦(会話)に挑んだり、
使用する言葉のニュアンスを判定できるように学習しておく、ということです。

グルーミング自体を投げ出すという手もあります。
そもそも相手にもグルーミングを行う気がない場合や内容重視のコミュニティーの場合は、それもいいと思います。
社会的グルーミングで幸福感が増すという一面ばかりが押し出されていますが、無理なグルーミング行動はむしろマイナスに働きます。
私はやる必要がないならやらないという選択も支持します。

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